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建築情報
2017/08/29

普通の人の「共感」が次の建築を開く

ブログ

 

建築雑誌よりご紹介させていただきます。

対談:槇 文彦氏 × 藤森 照信氏


 槇  氏:SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などの
           コミュニケーション手段に代表されるように
           共感は現代において大事なキーワードです。
           藤森建築の人気も共感によるところが大きいのでしょう?

藤森氏:私は、1990年代に、モダニズムの建築家を「白派」と「赤派」に分け、
           ヴァルター・グロピウスを祖とする白派は抽象性を求め、
           実在性を尊重する赤派の代表はル・コルビュジエ、と書いた。
           槇さんは白派です。
           建築は実在するものですから、抽象とは何かをずっと考えてきたところ、
           槇さんがニューヨークのグラウンド・ゼロにつくった、
           高層オフィスビル「4 WORLD TRADE CENTER」
           の写真を見て、引き付けられました。
           ガラスの彫刻のような建築で、
           そのガラスが空を映し出し、純粋な抽象が完成している。

 槇  氏:ガラスにはその時々の空や周辺の景色が映し出され、
           様々な表情を見せます。
           あの建物ほど世界中の見知らぬ人々から
           「自分はこんな姿を捉えた」と写真が届くものはありません。

藤森氏:もう一つ面白いと思ったのは、
           ガラスが空を映し出すと、建物の中に空が入っているように見えること。
           つまり、内外の「反転同居」です。
           これは対立物の一つの関係で、
           その考えを世界で初めて建築空間に持ち込んだのは、千利休の茶室。
           槇さんのビルも、日本人だから到達できた境地ではないでしょうか。

 槇  氏:藤森建築は仕上げに特徴がありますよね。

藤森氏:私が他の建築家と違うところがあるとすれば、仕上げの段階で現場に行き、
           自分の手で見本をつくって示すこと。
           だから木や土など、自分が扱うことのできる自然の素材を好みます。
           変なことをやっているので失敗の繰り返しではあるのですが、
           幸いなことに私の場合は建て主が怒らない。

 槇  氏:それはどうして?

藤森氏:仕上げのときは建て主にも参加してもらうことが多く、
           一緒につくっている感じがあるからでしょうね。
           丸太の柱などに使う木を選ぶときも、建て主と一緒に山に行きます。

 槇  氏:建築家は皆、つくったものを社会が喜んでくれるのが最も楽しい。
           僕はいつも言うのですが、
           建築の最後の審判者は「時」で、パブリックの共感が建築の歴史になる。

藤森氏:私自身は、ある周囲の人々の内々で
           自分の趣味でやっているような気持ちでこれまできたんです。
           建物はしばらくしたら壊れるし、壊していいと思って発表する気もありませんでした。
           でも、そういうのにも光を当ててくれる人が現れた。
           建築っていいなと思うところですね。

 槇  氏:それは大事なことですよ。
           これからは建築を見る目、見方、いろんなものが多様になり、
           それが新しい建て主層をつくっていく。
           藤森さんは「建築には夢がある」ということを示してくれている。
           それは一つの大きな功績だと思います。
           人間にとって夢は、やっぱり大事なものですから。