普通の人の「共感」が次の建築を開く
建築雑誌よりご紹介させていただきます。
対談:槇 文彦氏 × 藤森 照信氏
槇 氏:SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などの
コミュニケーション手段に代表されるように
共感は現代において大事なキーワードです。
藤森建築の人気も共感によるところが大きいのでしょう?
藤森氏:私は、1990年代に、モダニズムの建築家を「白派」と「赤派」に分け、
ヴァルター・グロピウスを祖とする白派は抽象性を求め、
実在性を尊重する赤派の代表はル・コルビュジエ、と書いた。
槇さんは白派です。
建築は実在するものですから、抽象とは何かをずっと考えてきたところ、
槇さんがニューヨークのグラウンド・ゼロにつくった、
高層オフィスビル「4 WORLD TRADE CENTER」
の写真を見て、引き付けられました。
ガラスの彫刻のような建築で、
そのガラスが空を映し出し、純粋な抽象が完成している。
槇 氏:ガラスにはその時々の空や周辺の景色が映し出され、
様々な表情を見せます。
あの建物ほど世界中の見知らぬ人々から
「自分はこんな姿を捉えた」と写真が届くものはありません。
藤森氏:もう一つ面白いと思ったのは、
ガラスが空を映し出すと、建物の中に空が入っているように見えること。
つまり、内外の「反転同居」です。
これは対立物の一つの関係で、
その考えを世界で初めて建築空間に持ち込んだのは、千利休の茶室。
槇さんのビルも、日本人だから到達できた境地ではないでしょうか。
槇 氏:藤森建築は仕上げに特徴がありますよね。
藤森氏:私が他の建築家と違うところがあるとすれば、仕上げの段階で現場に行き、
自分の手で見本をつくって示すこと。
だから木や土など、自分が扱うことのできる自然の素材を好みます。
変なことをやっているので失敗の繰り返しではあるのですが、
幸いなことに私の場合は建て主が怒らない。
槇 氏:それはどうして?
藤森氏:仕上げのときは建て主にも参加してもらうことが多く、
一緒につくっている感じがあるからでしょうね。
丸太の柱などに使う木を選ぶときも、建て主と一緒に山に行きます。
槇 氏:建築家は皆、つくったものを社会が喜んでくれるのが最も楽しい。
僕はいつも言うのですが、
建築の最後の審判者は「時」で、パブリックの共感が建築の歴史になる。
藤森氏:私自身は、ある周囲の人々の内々で
自分の趣味でやっているような気持ちでこれまできたんです。
建物はしばらくしたら壊れるし、壊していいと思って発表する気もありませんでした。
でも、そういうのにも光を当ててくれる人が現れた。
建築っていいなと思うところですね。
槇 氏:それは大事なことですよ。
これからは建築を見る目、見方、いろんなものが多様になり、
それが新しい建て主層をつくっていく。
藤森さんは「建築には夢がある」ということを示してくれている。
それは一つの大きな功績だと思います。
人間にとって夢は、やっぱり大事なものですから。